自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

エッセイ倶楽部

牧歌舎随々録(牧歌舎主人の古い日記より)

048.

人間の欲望には際限がなく、不満の種にも限りというものがない。恒産なくして恒心なしというが、恒産があったとて、争いの種はつきないだろう。これだけ物質的に恵まれても、人々は不満の中で生きており、親和よりも争闘を心に宿している。
現代の争闘は、屈折したものである。競争というのでもない。単なる敵対でもない。そういうまっとうなものではない。おのれが得をしようの我執、そうできないことの怨嗟、虚栄、蔑視、嫉妬その他の哀れむべき屈折の感情が世を支配しているのである。
これを人間の動物的本能に由るものとして、ここに人間の本質を置こうとする人もいるが、動物は一定の物質的充足で満足するのである。
現代人の生活心理というものは、決して健全なものではない。不満、不安、いがみあい、欺瞞……そういうもので現代人の意識は埋め尽くされている。
だが、結局のところ、人間はそういう意識に支配されている限り救われることはない。人を救うものは、最低限必要な物質と、崇高な思想である。崇高な思想とは、全人類との親和である。全人類との親和は、全宇宙との親和である。

1998.04.03