自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

エッセイ倶楽部

牧歌舎随々録(牧歌舎主人の古い日記より)

107. 心と理論

 心は自分に密着しすぎ、理論は自分から離れすぎる。どちらを手がかりとして生きるかは個々人の自由だろうが、そこに納まりかえっている姿は見苦しいものである。特権階級と結託して人の道を説いて聞かせる生臭坊主、論敵を常に悪人のように言いつのる共産党員。どちらもうさんくささ紛々である。
 社会主義芸術が面白くないことから考えると、人間というものはまず心をきちんと自分のものとしてもたねばならないことがよくわかる。心は環境によって変わるものだからといって、理論の方を常に上位に置く思考は、それだけで反人道的であり冷酷無残なものである。しかしながら、心を上位に置こうとすれば、それは理論を下位に置くわけであるから、権力者の理不尽な意図と行動を正当化するのにもってこいの状況が生まれてしまう。だから、いずれにせよ、納まりかえってしまうのは危ういことなのである。