自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

エッセイ倶楽部

牧歌舎随々録(牧歌舎主人の古い日記より)

049.

 他者の意識を理解する能力は最も「人間的」な能力であろうが、この能力を向上することの必要性やその方法について論じられることがあまりに少ないように思われる。人間関係における「思いやり」の大切さ、というテーマは教育の面から重要なものとされているが、その方法が体系的に示されたことはあるのだろうか。
 人間の意識というものは環境に決定される。個々人の資質というものも広義の「環境」に含めるとすれば、環境決定論はほぼ絶対的とみなしてよいだろう。
借金のある時の精神状態とない時のそれとは大いに異なるが、借金のある者の精神状態をない者から想像することは、その逆と同様、非常に困難なものである。
 歴史を学ぶ際にも、このことはきわめて重要であり、また困難なテーマである。ペリーを初めて迎えた時の幕閣の意識というものは、今日、とうてい完全には想像しきれない重苦しいものであったろうし、攘夷派の気持ちや、明治新政府の思想も、容易に忖度できるものではないだろう。
 しかし、その気になって研究、努力すれば、ある程度の成果は期待できるのではないか。そんなことを考える。
 むしろ、これは歴史を学ぶ際に絶えず追究されるべき作業であり、優れた歴史家というものは、ある才能、磨かれた想像力、個々の事案についての研究の努力により、時代精神をかなり「ありありと」自己の中に再現しているのでなければなるまい。

1998.04.04