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018 漱石の文章の特徴として、局面局面におけるクライマックスにおいて、卓抜な比喩が使われるということがある。最も興趣が盛り上がったり、緊張したりという場面で、一種の芸ともいえるような巧みな比喩が現れる。おそらくは彼の漢詩や、俳句や、あるいは落語の趣味などが養ったものであろうが、ここという時に、普通なら芸など見せる余裕もないようなところで、芸が出る。漱石の文章の魅力の一つはその余裕であり、その余裕がまた叙述を引き締めもするのだから、遊びが真実を突く、とでもいえるような不思議な余韻が伝わるのである。一例を示す。『行人』の主人公が、待ち受けた手紙を読み始める場面……。
「自分の眼には、この小さな黒い字の一点一画も読み落とすまいという決心が、炎の如く輝いた。自分の心は頁の上に釘付にされた。しかも雪を行く橇のように、其の上を滑って行った」

(1997.8.14)


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