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006 執着について

 執着ということばは、ふつうあまり良い意味とされていない。逆に、執着のない心の状態をもって健全とされるのが通常である。
 しかし私は、執着あってこその人生ではないかと思う。むしろ何かに執着がある心の状態こそ、平安なものではないかとさえ考えるのである。
 むろん、女性にしつこくまとわりつく類の執着は論外である。女性でいうなら、その魅力に対して賞賛を惜しまず、その魅力の本質を思索し、その種々相に感動していくことをもって執着とすべきである。
 金に対する執着も悪くはない。床下に札束を貯めて、夜な夜な取り出して見るなぞは子供じみた無邪気さがあり、その人を幸せにしているものだから良い執着といわねばならないだろう。
 そういうあこがれをともなった執着があってこそ、人生である。それはいわば「愛」であって、そのような執着こそが人生の喜びの根元ではないかと思う。芸術の根元であることはもちろんである。
 そのような執着は、「ふっきれ」もまた良いものである。その執着あるがゆえに死ぬのがいやだというような執着は不幸をもたらす悪い執着である。執着は執着、ふっきれはふっきれ、そのように生きることができればよいのだろうとこのごろ思っている。
 執着は、いわばその人の根源的なすなおさとも言うべきものだろうから。
                           1997.4.4朝


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